大杉栄、林倭衛宛書簡 「国境まで出ろという命令を受けた」

5月25日 

大杉栄、林倭衛宛書簡

「きのうの朝放免と同時に警視庁へ連れて行かれて、すぐ国境まで出ろという命令を受けた。……最初はスペインの国境以外には行けないということだったが、最後にマルセイユまでときまって、8時のラピッドにガール・ド・リヨンまで送られて来た……はなはだ相済まないが、友人諸君から金を集めて日本までの船賃をつくってくれないか。……ヨンにある荷物も取って来て欲しい。外にもいろいろ頼みたいことがある。……リヨンへ寄ったらEliisee ReclusのL'H0mme et la terre(ルクリュ『地人論』)というのの古本を買って来てくれ。二百フランばかりだ。……それから裁判所から受取ったケースの中に、予審判事が(この事実は弁護士も知っている)証拠物件として持ち出した、日本文の手紙や原稿なぞがはいっていない。これは弁護士と相談して、貰えるものなら貰って来てくれ。……僕の拘引以来の、僕に関する新聞記事をあつめて貰ってくれ。……二十五日正午。栄 倭衛兄 僕の拘引のために、いろいろ迷惑をかけた人達によろしくおわびを願う、ことに警視庁まで連れて行かれた人達に……」