1925年 古田大次郎獄中手記より「和田君の無期が問題になつた」

1925年 9月11日

…昨日面会場で布施君と話してたら、机の下で蟋蟀がないてゐた。

昨日自動車の内から、外の景色を眺めてこれが見納めかと思つたが、別に変つた感じも起らなかつた。和田君を突ついて如何だいと聞いたら、同じやうな事を答へた。

和田君の無期が問題になつた。軽すぎて和田君に可哀さうだといふのだ。僕も出来る事だつたら和田君と一緒に死にたいから、同君が控訴するやうだつたらお相伴をする積り。

控訴権放棄──権なんていふ文字は、書くさへ厭だし、控訴権なんて思ふのは、馬鹿げ切つた事だが、この際我慢しなくてはならぬのだ──を、まだしない所為だらう、ハツキリと死の覚悟をきめる事が出来ない。……