「革命劇以上の演説会」横倉辰次『銅鑼は鳴る、築地小劇場の思い出』より

この日は入場定員を無視して千人以上の聴衆が入場した上に同数ぐらいが場外に溢れて劇場を取り巻いていた。…主催者の一人ある後藤学三が舞台に駆け登り「このような抗議集会を屋内でしても意味がない。諸君、街頭へ街頭へ」と絶叫したのがキッカケになり待機していた千人あまりの聴衆と警官の間で乱闘となり、警官を押しまくった聴衆と合流した。そして待機していた警官隊と正面から揉み合いとなった。警官隊は騒動の拡大を恐れたし群集の銀座方面への流出を防ごうと懸命であった。この時、橘あやめが、紺絣の筒袖に鳥打帽子という男装でいたのを発見したポリ公が検束しようとしたのをかばって鋭いメリケンをくわせた者がいた。これが見事にきまって警官の顎にかけたベルトが千切れて空中高く舞った。上したポリ公が抜剣した。これがキッカケで警官隊と群集の間に乱闘が起きた。…乱闘は続き双方に多数の怪我人を出した揚句、数十名の検束者を出し、それを奪還しようとする者との間に更に激しい乱闘が起きて、さながら市街戦を思わせる激突、騒動となり、芸術の殿堂である築地小劇場の入り口の階段は鮮血に染められた。この日、群集の一部はポリ公の阻止を排除して米国大使館へ雪崩れこんで抗議した。