1925年 古田大次郎獄中手記より「愈々今日迄だ」

1925年 9月17日


古田大次郎獄中手記より

「愈々今日迄だ。明日から外の三君は赤になる。僕は灰色だ。いつ永遠に消えるとも解らぬ灰色だ。人並みに見る浮世の光も今日限り。思へば一寸淋しい気もする。」

「自分の死ぬ事計り考へてゐる所為でか、今日古河君に会つて、『昨日追悼会をやつた。』と聞いた時、誰のか解らなくつて、僕達のにしては莫迦に早いアと変に思つた。で『誰の追悼会?』と聞き返した位だ。」
「大杉の死を決して忘れた訳ではないのに余程頭が如何かしてゐると見える。倉地君と新谷君とに検事控訴があつた。マンマト不意打を喰つた形だ。如何して控訴なんかしたのか。」

「明日にも和田君は他所に行く。僕は遠からぬ中に殺される。後に残る二人は淋しいだらう。僕達も何となく心細い。友人の落付き場も見ないで死ぬのは辛い。がもう仕方のない事だ。」
……

 附言
未決中の感想記は、この第三十二冊で止めになる。これからのが本当の『死刑囚の獄中記』だ。」